86-1 敵軍の動向
"793”:” 目の前にあるのが政府軍の本部ね。何とかあの拠点を攻略できないかしら?",
鳴海遥「うぅっ、お姉ちゃん・・・真希お姉ちゃん・・・」
鳴海遥:遥はしくしくと泣き、涙の跡を何度も拭いていた。
波間七海「遥ちゃんもう泣かないで。遥ちゃんも小早川も自分で自分の道を決めた・・・彼女も自分でその決断を下したから、決断したなら互いに前に進むしかないわ」
波間七海:私は自身の言葉がとても冷徹に聞こえた。自分自身でも驚いた。
波間七海「小早川が言っていた通路はここね。」
波間七海:小早川に教えてもらった排水溝の蓋を開けると人が通れる程の通路になっていた。
鳴海遥「お、お姉さん・・・真人お姉さん達を置いて逃げちゃうの・・・?」
鳴海遥:遥は恐る恐る訪ねてきた。
波間七海「ううん、反対方向に向かうつもりよ。小早川があっちから来たという事は、小早川が来た道を進んでいけば、敵の陣営までたどり着くはず」
波間七海:遥の肩に手を置いて続けた。
波間七海「遥ちゃん、これからたくさんの敵を倒さないといけないから、とても危険になる。危険だから遥ちゃんはこのまま反対側に進んでいくといいわ。橋を出たら光と一緒に地下通路に向かってこの街を出るの」
波間七海:私は遥にここから脱出するように促すと小早川が進んできたであろう道を進んだ。私はこれが怜を見つける最後のチャンスだと知っていた。
波間七海:暫く通路を進んでいると、遥が後ろに付いてきていたことに気がついた。
鳴海遥「遥、お姉さんについていく!」”,
"794”:”
波間七海:しばらく通路を進んでいくと遥が不安そうに尋ねてきた。
鳴海遥「もうかなり歩いたよ・・・これ以上は危ないんじゃ・・・」
波間七海「危険なのは重々承知よ」
鳴海遥「そ、そんな! お姉さん死んじゃうよ!?」
波間七海「そうね・・・遥ちゃんの言う通りよ。自分が何をしているかは知っているつもり」
風間雅「遥ちゃんが正しいわ。あなたはただ死のうとしてるだけ。まさかここまで自己中心的な人とは思わなかったわ」
風間雅:背後から声が聞こえた。
波間七海「風間さん・・・光に言われて来たの?」
風間雅「いいえ、あなたがこっそり離れたからついてきたの。もう戻りましょう。撤退完了までもう時間がない、取り残されちゃうわよ!」
波間七海「帰らない! 怜を救い出す最後のチャンスなの。あの子を見捨てて私だけ逃げるなんてできない!」
風間雅「あなた、以前、私を学校から避難するように説得してた事、覚えている? 今のあなたは、あの時と私とまったく同じよ」
波間七海:風間に指摘されて学校からみんなと避難した時のことを思い出した。
波間七海「そ、それでも・・・怜を置いて一人で逃げることは絶対にできない・・・」”,
ほとんど人間は残ってないみたい・・・いったいどこに行ったのかしら?",
86-2 本部侵入
"795”:” 加山さんを追いかけたいなら追いかけなさい。あなたが決断することよ。",
風間雅「それは間違っているわ。私が加山さんなら、あなたの無事を祈る・・・。自分の為に危険を冒してほしくないと思ってるはずよ!」
波間七海「・・・・・・」
波間七海(風間さんの言ってることは正しい・・・でも・・・)
波間七海「あなたとここで言い争ってる時間はないわ。それに・・・これはもう決めたことなの!」
風間雅「どうしても行くというのなら、私を倒していきなさい! 私は遥ちゃん程優しくないわよ!」
鳴海遥「・・・・・ふ、二人ともあんまり大きな声を出すと見つかっちゃうよ~!」
鳴海遥:遥の言った通り、私達に気が付いた敵が襲いかかってきた。
波間七海「どんどん来い! 全てねじ伏せてやる!」
風間雅「私もいることを忘れないでよ!」
波間七海:私と風間は互いに武器を取り敵に向かっていった。”,
"796”:”
波間七海:敵に気づかれた事を皮切りに次々と敵が襲いかかってくる。
風間雅「つ、強い! このまま包囲されたら進退ままならなくなる・・・! これがあなたの欲しがった答えなの?」
波間七海「・・・・・・」
波間七海:風間の言う事に私は答える事が出来なくなった。
鳴海遥「お姉ちゃん・・・何か変だよ・・・」
波間七海「遥ちゃん、どうしたの?」
鳴海遥「ここって敵の本拠地でいっぱい人がいるんだよね? さっきからゾンビばっかり襲ってきてるよ!」
波間七海:遥の言ったことに私と風間はお互いに顔を合わせた。
風間雅「! ま、まさか・・・!」
波間七海「もしかしたら奴らは既に撤退を始めている!? もしかして街の破壊を早めようとしているの!?」
風間雅「早く戻りましょう! 立花さんと光にこの事を伝えないと! 撤退時間を稼ぐためにまだ戦ってるはずよ!」
風間雅:風間が焦りながら言った。
波間七海「風間さんは先に戻って! 私は怜を探してから戻るわ!」
風間雅:私の台詞を聞いて風間は地団太を踏んだ。
風間雅「もぉ~~~! 本当に頑固なんだから!」
風間雅:仕方なく風間は私達と別れ元の道を戻って行った。”,
あなたの為に割ける人材が今はいないの、何とか自力で乗り切って。",
86-3 自爆攻撃
"797”:” ゾンビの大群がまた襲ってきたですって!?この場所を突破されたら大参事よ!",
波間七海:敵を倒しながら本部内を探索していると異様な姿のゾンビが突進してきた。
波間七海「くっ!」突進を回避して距離を取る。
波間七海:ゾンビは私に躱され勢いを殺すことができずそのまま壁に突進してしまった。
波間七海:ドゴォン! 壁にぶつかった瞬間ゾンビが爆発した。
鳴海遥「きゃぁぁ! あのゾンビ、爆発したよ!」
鳴海遥:爆発の衝撃に遥は転んでしまった。
波間七海「あ、危なかった・・・」
鳴海遥「み、みてお姉さん! 爆弾ゾンビがあんなに! この本部ごと爆発させちゃうつもりだよー!」
波間七海:遥が指をさす方を見ると奥からさっき爆発したゾンビと同じタイプのゾンビがぞろぞろと現れた。”,
"798”:”
波間七海「くっ! 遥ちゃん逃げましょう!」
波間七海:私達は急いで出口に向かった。
鳴海遥「見て! 爆弾ゾンビが出口を塞いでる! このままじゃ出れないよ!」
波間七海「私があいつらを引き付ける! その間に脱出して!」
波間七海:出入口を守っているゾンビの前に出てみたが一向に向かってこない。そうこうしているうちに他の爆弾ゾンビが後ろから追いつき、それと呼応するように出入口を守っていたゾンビが動き出した。
鳴海遥「あ、あのゾンビ達、遥たちを囲んで逃がさないようにするつもりだよ!」
波間七海:遥の言うように、爆弾ゾンビは私達を部屋の隅に追い詰めた。
波間七海「遥ちゃん、私の後ろに隠れて!」
波間七海:爆弾ゾンビへの攻撃を繰り返すも全く動じず、どんどん私たちとの距離を詰めていった。すると爆弾ゾンビの体内がかすかに点滅しはじめた。
鳴海遥「キャーーー! 爆発するー!」
鳴海遥:遥は叫ぶとその場に座り込んだ。
深見翔央「伏せろ!」
深見翔央:爆弾ゾンビの背後から声が聞こえた。
波間七海:私は遥に覆いかぶさるように伏せた。
波間七海:伏せた瞬間、大きな破裂音がして私と遥は爆風で吹き飛ばされた。”,
まさか本部が破棄されているなんて・・・深見に助けられたわね・・・。",
87-1 撤退準備
"799”:” 深見がこの異変の原因かもしれないけど、私は本当の敵が政府だとみんなに知ってもらいたいの。",
波間七海:爆風に吹き飛ばされたが私も遥も大きなケガはなかった。
波間七海:私は声の主が気になり爆発した方に視線を向けた。煙の中から人影がゆらゆらと立ち上がり、こちらに近づいてきた来た。その人影の主は深見だった。
波間七海「深見・・・どうしてここに?」
波間七海:彼がここにいたこと以上に、あの爆発にもかかわらず彼が生きている事に驚いた。
波間七海:しかし、彼の腕には大きな傷ができて、赤黒い血がどくどくと流れ出ていた。
波間七海「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」
波間七海:私達は深見に駆け寄った。
深見翔央「大丈夫・・・だ。しかし、爆発の傷に関係なく俺の体は思った以上に傷ついているようだ」
深見翔央「これまで実験で数えきれない薬を体に入れてきた・・・もう治療ができないほどに」
深見翔央「赤城は俺の事を貴重な実験体だと思っているようだが、俺はいつ死んでもおかしくないんだ」
深見翔央:深見は少し寂しそうな笑顔を見せた。
深見翔央「あのゾンビよりも、俺の方が危険なそんざ・・・い・・・」
波間七海:深見は意識を失いその場に崩れ落ちた。
波間七海「深見!? 早く戻って手当してもらわないと!」
波間七海:私は深見の腕の傷を布で強く縛ると本部から脱出した。”,
"800”:”
立花真人「何をしていた! 探しに行こうと思っていた所だったんだぞ!」
波間七海「ごめんなさい。でも説明している時間はないの! 深見が重傷で治療をお願い!」
立花真人「軍校在籍の衛生兵は既に撤退してしまった。今は治療できる者は一人しかいないんだ」
波間七海「牧瀬先生? もう体調は大丈夫なの?」
牧瀬美知子「姉さんじゃないわ。私よ。彼の手当ては任せて!」
牧瀬美知子:牧瀬美知子が横になっている深見の治療を始めた。
牧瀬美知子「姉さんは・・・」
牧瀬美知子:深見の治療を行っている美知子が突然顔を上げ、私に何かを伝えようとした。
波間七海「牧瀬先生がどうかしたの?」
波間七海:私は何かまずいことを聞いてしまったようで、周囲が急に静まった。
波間七海:私は深見の怪我の具合が気になって、美知子が涙を浮かべていた事に気が付かなかった。”,
深見の行動、彼の怪我を見てしまうと。恨むに恨めないじゃない・・・もう・・・。",
87-2 ゾンビの秘密
"801”:” 軍はどうやってあのゾンビを操ってるのかしら・・・?何のためにこんなひどいことを・・・!",
相沢美月:静寂の中、背後から声が聞こえた。
相沢美月「みんな! 何をしているの!」
波間七海「美月先輩!?もう地下通路に避難したんじゃないの?」
相沢美月「みんなに伝えることがあって・・・」
相沢美月:美月先輩は美知子を見つめながら話し出した。
相沢美月「牧瀬先生が・・・残念ながら、亡くなったわ」
波間七海:美月先輩の言葉に、みんなが一斉にざわつき始めた。遊園地に避難していた子はみんな牧瀬先生の世話になっている。みんなショックを受けていた。
相沢美月「急だったわ・・・昨日、意識を失って倒れて・・・今朝、息を引き取ったわ」
波間七海:再び静寂が周囲を包んだ。みんな仲間の死には慣れたはずだった。それでも牧瀬先生の死をみんな受け入れられず悲しみに暮れた。
相沢美月「美知子ちゃん、辛いかもしれないけど・・・あなたには伝えないといけないと思って・・・たった一人の家族だから・・・」
牧瀬美知子「ありがとう・・・ございます・・・」
波間七海:私は美知子の顔を見る事が出来なかった。
立花真人「悲しいのはわかる、しかしこの場に留まっているわけにはいかない皆、持ち場につけ」
立花真人「美知子さん、あなたは引き続き深見の治療を」
牧瀬美知子「・・・わかったわ」
波間七海:立花の台詞を聞き、みんな、美知子の気持ちを酌みその場を後にした。
波間七海:去り際に聞こえてきた美知子の泣き声が私の胸を強く締め付けた。”,
"802”:”
波間七海:撤収作業を手伝っていると声をかけられた。
深見翔央「お疲れ。様子はどうだ?」
波間七海「深見!? もう大丈夫なの?」
深見翔央「ああ、もう血も止まっているし普通に歩き回る分には大丈夫だ」
波間七海:(あ、あれだけ重症だったのに・・・この回復速度・・・。もしかしたら赤城が欲しがっているのはこの再生能力を持つ遺伝子なんじゃ・・・? 軍人に深見の細胞を植え付ければすぐにケガが治る無敵の軍隊ができる・・・。)
波間七海「あの時・・・危険を顧みず助けてくれて、本当にありがとう・・・」
深見翔央「・・・・・・」
深見翔央:深見はフッと笑みを浮かべると俯いた。
深見翔央「どれだけ多くの人を救っても、俺が犯した罪の償いにはならない・・・」
深見翔央「牧瀬紗耶香に関してもそうだ。俺が遊園地にいたときは彼女に世話になった」
深見翔央「でも彼女の死は、あまり悲しむな。密かに確認したが、彼女はクローンだ。前にもクローンが死ぬところ見ただろう。肉体の限界・・・寿命だったんだ。」
波間七海:(何度深見の話を聞いても信じられない・・・。私達の前にいた牧瀬先生は、いつも私達に優しかった牧瀬先生そのものだ・・・。)
波間七海「クローンって・・・本当にすぐに死んでしまうのね・・・」
深見翔央「クローンは元々人工的に作られた実験品だ。情報流出を防ぐ為に保存期間を設定してある商品だ。期間が過ぎれば自然と衰弱死するのさ」
深見翔央「何よりも悲しいのは、本物の人間のように感情を持ち合わせているが、人を愛したくても愛せないことだ」
波間七海:深見の声はとても優しかった。その穏やかな表情は胸のつかえがとれたかのようだった。”,
赤城が・・・あいつさえいなければ、こんな事にはならなかったのに・・・!",
87-3 政府の最終決定
"803”:” クローンはどんな気持ちなんでしょうね・・・駄目ね・・・考えるのはやめましょう!攻撃開始よ!",
立花真人「間もなくタイムリミットだ。我々も撤収を開始する! 貴方達は先に行け!」
波間七海「立花さんはどうするの?」
立花真人「我々は地下通路の同志たちが撤退するまで殿を務める!」
波間七海「わかったわ! あとで合流しましょう!」
立花真人「気をつけて行け!」
波間七海:そういうと立花は私達に敬礼をした。この時、何故が分からないが、とても不吉な予感がした。”,
"804”:”
加山怜「いや! 離して! 離してよ!」
波間七海:私達が渚輪大橋から離れようとしたとき、遠くから声が聞こえた。
波間七海「あの声は・・・怜?」
鳴海遥「遥も聞こえたよ!」
深見翔央:深見が声のした方を指差していった。
深見翔央「この先はヘリポートだ! 加山怜はヘリポートにいる!」
波間七海「彼らはヘリで怜をどこかへ連れて行くつもりなの!?」
鳴海遥「お姉さん!」
波間七海「行こう! 怜が連れ去られる前に!」
深見翔央「・・・・・・」”,
私達の邪魔をしている桜井も精一杯生きたいだけなのにね・・・。",
88-1 撤退前の反撃
"805”:” 撤退完了まであと少しよ!攻勢に出て政府軍に搖動を仕掛けて!",
波間七海:ヘリポートに近づくとヘリのローター音が大きくなってきた。遠くから赤城が怜を強引に引っ張りながらヘリに向かってるのが見えた。
波間七海「やっぱり怜だ! 急ぎましょう! このままじゃ怜が連れて行かれてしまう!」
深見翔央「待て! 敵の数を見ろ! あの数だぞ、死ぬつもりか?」
波間七海「戦う覚悟はとっくにできているわ!」
深見翔央「これ以上言っても無駄のようだな・・・」
波間七海「わかっているなら止めないで!」
深見翔央「俺も行こう。一人よりマシだろう」
波間七海「深見・・・ありがとう!」”,
"806”:”
波間七海「赤城! お前の部下は全て倒した! もう逃げ場はないわよ!」
深見翔央「さぁ、加山怜を返してもらおうか? 彼女を守るのも俺の役目なんでな。貴様に連れて行かれるわけにはいかない」
赤城優斗「フハッ! バカ共が!これほど珍しい検体を、手放すわけ無いだろう!」
赤城優斗「貴様がこいつと一緒に居たいなら、私についてくるといい」
赤城優斗「私に協力し、DNAの解析に成功したら、貴様達は人類最初の不老不死、新人類になれるぞ!」
波間七海「不老不死? それがお前の目的なの?」
赤城優斗「人間の寿命はDNA内の遺伝子情報によって決められている。その情報を任意で書き換える事ができれば、不老不死も夢ではない!政府の無能なブタ共は軍事運用の事しか頭にないが、私はさらに先を見据えているのだ!」
波間七海「くだらない・・・」
赤城優斗「なにぃ?」
波間七海「あんたはただの頭がイカれてるただのクズよ!」
赤城優斗「バカが! 不老不死は人類最大のテーマだ! 貴様とて例外ではなかろう? 永遠に若い体で生き続けられるんだぞ!」
波間七海「そんなの必要ない! 私は大事な人と一緒に生きていればそれでいいわ!」
赤城優斗「ここまで愚かだとは・・・政府のブタ共以下だ。貴様のようなバカと話をしているだけ無駄だ! さっさとそこを退けっ!」”,
加山さんを探したいのは分かる。でも今はみんなの命がかかってるの!",
88-2 赤城を追撃
"807”:” 赤城を追いかる?わかったここは任せて行きなさい!私たちは地下通路で待ってるわ!",
赤城優斗:業を煮やした赤城は懐から拳銃を取り出した。
赤城優斗「チィッ! それ以上近づいたらこいつを殺す!」
波間七海:赤城が拳銃を怜の頭に当てたのを見て、慌てて近づくのをやめた。
赤城優斗「カス共が粋がるなよ! 手ごまがあれだけだと思っていたのか!?」
波間七海:突然、赤城は自身の腰あたりに手を添えた。するとヘリポートの隅にあったエレベーターが動き扉が開いた。
深見翔央「エレベーターからゾンビが来るぞ!」
波間七海:エレベーターから敵が近づいてくる。
深見翔央「気をつけろ!」
深見翔央:彼は低い声で言った。”,
"808”:”
深見翔央「くっ! 赤城が逃げるぞ!」
波間七海:敵の攻撃を剣で防ぎつつ深見が叫んだ。彼の言葉を聞きヘリの方を見てみると、ヘリはすでに上昇し始めていた。
波間七海「待ちなさい!」
波間七海:残りの敵を倒し、ヘリに向かって全力で走って飛んだ。しかし、あと少しの所でヘリに届かなかった。
波間七海「そ、そんな・・・!」
波間七海:絶望し、その場でへたり込んでいると、空から声が聞こえてきた、何か言い争っているようだ。
赤城優斗「何をする! 落ちるぞ! 死ぬつもりか!」
加山怜「離して―!」
波間七海:激しく争う声がヘリからローターよりも大きな声が聞こえた。
波間七海:しばらく見守っていると突然、ヘリから黒い影が飛び出た、私が反応するよりも早くドサッと、その影は重々しい音と共に地面にぶつかった。
波間七海「怜・・・? 怜!!」
波間七海:落ちてきた「物」が怜だとわかるのに時間はかからなかった。私は怜の名前を叫びながら駆け寄った。
波間七海:怜は地面に倒れ動こうとしなかった。彼女の頭と口から血が溢れ出していて、地面に血だまりができていた。
波間七海「しっかりして! あ、赤城に突き落とされたの!?」
波間七海:私は怜を抱き上げると涙を流しながら聞いた。
加山怜「ち・・・違うわ・・・。あの人と・・・一緒に、行きたくなかった・・・から・・・飛び降りたの・・・。モル・・・モットとして生きるなんて・・・イヤ・・・」
加山怜:怜はコホッと口から血を吐いた。その声はとても小さく、今にも消えさりそうだった。
波間七海「怜、しっかりして! みんなの所に今すぐ連れて行くわ! すぐによくなる! そしたらまた一緒にいられるわ!」
波間七海:私は必死に声をかけた。
加山怜「フフッ・・・嬉しい・・・でも、ちょっと・・・疲れちゃった・・・。本当に・・・ちょっと疲れ・・・だから少し、休むわ・・・ね・・・・・・」
波間七海「だ、ダメ・・・怜・・・駄目! 目を開けて!」
波間七海:どんどん力が抜けていく怜に声をかけ続けた。
加山怜「さようなら・・・私の、大事な人・・・本当に・・・あり・・・が・・・・・・」
波間七海:怜はゆっくり目を閉じた。そして二度と目を開ける事はなかった。その顔はとても安らかな表情をしていて、少しだけ微笑んでいるように見えた。まるで楽しい夢でも見ているよう・・・。
波間七海「いや・・・怜、怜・・・怜ぃぃぃーーーーー!!」”,
科学者だからって赤城を甘く見ないで!どんな策を隠しているかわからないわ。",
88-3 加山怜
"809”:” あの異常なまでに武装したゾンビに仲間がたくさんやられてるわ!油断しちゃダメ!",
深見翔央「殿を務めていた軍校生もそろそろ撤収するようだ。俺達も地下通路に撤退しよう。」
深見翔央:ヘリポートの端で連絡を取っていた深見が私に近寄り言った。
波間七海「・・・・・・」
波間七海:私はすぐに返事をすることができなかった。
深見翔央「いつまで落ち込んでいるつもりだ! 死にたいなら勝手にしろ、勝手に死のうとする奴の手伝いをしているほど暇じゃないからな」
波間七海:深見があえて冷たい態度を取ることで私を奮起させようとしていることは分かっていた。しかし、今の私は何も考えられなかった。
深見翔央「くっ・・・勝手にしろ!」
深見翔央:深見は私を気にかけつつもその場を去った。
波間七海:私はしばらく怜の側に座り込んでいた。
桜井玲奈「あんた・・・こんな所で何してるの? こんなところにいたら死ぬわよ?怖くないの?」
桜井玲奈:桜井が急に表れた。ここの騒ぎを聞きつけたのだろうか、しかし、私にとってはどうでもいいことだった。
波間七海「怖い? 怜はもうこの世にいない・・・他の生存者はみんな逃げた・・・もう私を必要としてくれる人は誰もいないのに、何を怖がることがあるの!」
波間七海:私は自分自身の事すらどうでもよくなっていた。
桜井玲奈「な!? 逃げた!?」
桜井玲奈:桜井は私の言葉に驚いて目を見開いた。
波間七海「ええ、立花さんが殿を務めてくれたおかげで、遊園地にいた大半の人間はもう逃げたわよ。あんた達の計画はもう失敗してるのよ!」
波間七海:私はなりふり構わずに話した。
桜井玲奈「あんた、バッカじゃないの! バカ! そんなに死にたいなら死になさい!」
桜井玲奈:何故か桜井は怒り、ゾンビを私にけしかけた。”,
"810”:”
波間七海:敵を倒した私は桜井に叫んだ。
波間七海「確かに私はもう生きようと思っていないけど、あんた何かに殺されるつもりはないわ! 一体何を怒っているの!」
桜井玲奈「わからないの!? あんた達、本当に馬鹿ね! 真人が殿を務めているですって!? ここで死ぬ気でいるからに決まってるでしょ!バカ!」
桜井玲奈「あんたらバカ共が生きようが死のうがどうでもいいわ! でも、真人がそんなくだらない事で死ぬのは許さない! あいつは私が殺す!」
桜井玲奈「そうよ、真人があんた達のような無能のために死ぬのは絶対に許さないわ!!」
桜井玲奈:桜井はますます興奮していった。
波間七海:(桜井・・・言ってることは無茶苦茶だけど。結局、立花さんの事を心配しているんじゃない・・・自分自身で自覚してないのかしら・・・。)
波間七海:彼女の様子を見て少しだけ私は冷静になった。
桜井玲奈「チッ・・・あんたみたいな馬鹿に何を言っても時間の無駄だわ! さっさと死になさい!」
桜井玲奈:桜井は吐き捨てるように言うとその場から消え去った。
波間七海「桜井・・・何処に行くつもりなの・・・?」
鳴海遥「きっと・・・真人お姉さんを探しに行ったんだと思う」
鳴海遥:遥が代弁してくれた。
波間七海「私達も排水溝の通路を使って立花さんに会いに行こう。」
波間七海:私は怜に向かって少しだけ祈った後、ヘリポートを後にした。”,
加山さんのこと・・・聞いたわ。簡単に気持ちがわかるなんて言えない・・・でも、それでも生きて!",